京峰石だより(blog)
京都・水尾。山里で守られてきた柚子の香り。
京都・水尾。山里で守られてきた柚子の香り。
京都の柚子と聞いて、
「水尾」という名前を思い浮かべる方は、まだそれほど多くないかもしれません。
京都市右京区、保津峡の北側。
山あいにある小さな集落・水尾は、昔から**「柚子の里」**として知られてきました。
京峰石のチーズテリーヌ「嵯峨」に使っているのも、この水尾の柚子です。
山の中にある「柚子の里」
水尾へ向かうと、京都の中心部とはまったく違う景色が広がります。
山に囲まれ、緑が近く、静かな時間が流れる場所。
秋から冬にかけては、柚子の黄色い実が山里の風景に彩りを添えます。
水尾は、日本における柚子栽培発祥の地のひとつともいわれています。
ただ、いつ、どのように柚子が伝わったのかについては、はっきり分かっていません。
それでも、この土地で長く柚子が育てられ、人々の暮らしとともに受け継がれてきたことは、水尾という場所の大きな魅力です。
「実生」で育つ柚子
水尾で大切にされてきたもののひとつが、実生(みしょう)の柚子です。
実生とは、接ぎ木ではなく、種から育てること。
柚子は実をつけるまでに長い年月がかかる植物です。
効率だけを考えれば、もっと早く育てる方法もあります。
それでも水尾には、長い時間をかけて育ってきた実生の柚子が残されています。
京都府でも、水尾の実生柚子は希少な地域食材として取り上げられています。
時間がかかる。
手間もかかる。
だからこそ、その土地で守られてきたものには、数字では表せない価値があります。
チーズのあとに残る、柚子の余韻
京峰石の「嵯峨」は、チーズの濃厚さの中に、水尾の柚子を合わせています。
柚子を強く効かせて、
「柚子味のチーズケーキ」
にしたかったわけではありません。
ひと口目は、チーズの濃厚さ。
そのあとから、ふっと柚子の香りが現れる。
そして最後に、重たさを残さず、すっと抜けていく。
そんな味わいを目指しています。
濃厚なのに、もうひと口食べたくなる。
その余韻をつくるために、水尾の柚子は大切な役割を果たしています。
京都の素材を使う、ということ
京都でお菓子を作るからといって、京都の素材を入れれば、それだけで「京都らしいお菓子」になるとは思っていません。
大切なのは、
なぜ、その素材を使うのか。
ということです。
水尾の柚子には、その土地の風景があります。
長い時間をかけて柚子を育ててきた人たちがいます。
そして、これからも残していこうとしている人たちがいます。
その背景まで知ると、一切れのチーズテリーヌも、少し違って見えてきます。
一切れの向こうに、水尾の景色を
京峰石のチーズテリーヌ「嵯峨」は、
水尾の柚子と西京味噌を合わせた、京都らしい一品です。
でも、食べた瞬間に、
「京都です」
と強く主張する味にはしていません。
チーズの中に、柚子の香り。
その奥に、西京味噌のやさしい深み。
それぞれが静かに重なっています。
お召し上がりいただいたとき、
「この柚子は、水尾という山里で育ったものなんだ」
と、ほんの少し思い出していただけたら。
一切れのお菓子の向こうに、京都の山里の風景まで感じてもらえたら。
それは京峰石にとって、とても嬉しいことです。